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​あめの水濯ぎて、あまる寒さ去りぬ

​2023年余寒見舞いSSです。

クリスマス・お年賀・寒中見舞い・バレンタイン等のご挨拶ありがとうございました!

​原稿でバタバタしており、遅くなってしまいましたが今年の白太さんと雪蛇の様子です。

​例年より短いですがご容赦くださいませ。

ようやく寒さも和らぎ、春の花が咲き始めました。

今年一年、皆様にとって素敵な年でありますように!

​(一年は春、田畑の支度と共に始まる農民より)

 如月は雨水の候初日、その二十四節気の名の通り、一日じゅうしとしとと降り続いた雨が、巴に残った残雪を綺麗に溶かし去った。この冬は、近年にない大雪に見舞われた巴市だったが、それももう終わりである。そして――美郷の白蛇の、大切なともだちも北へ帰る時だ。
 ――ゆきへび、帰る?
 ――ユキヘビ、帰ル。
 雨に濡れて溶けぬよう、軒下に段ボールで作られた急拵えの避難所の中。それでもほとんど身動きの取れなくなっていた雪蛇が、よろよろと濡れ縁に出て来た。白蛇はそれに寄り添っている。美郷の隣で見ていたチンピラ大家が、「健気だねェ」と呟いた。
 雪蛇が、雨の降り続く中庭に出る。
 塵に汚れて灰色の体が、見る間に雨に打たれて輪郭を崩してゆく。しょんぼりとそれを見守っていた白蛇が、残雪の最後の一片が消える頃、不意に頭を上へ向けた。怜路がおお、と小さく声を洩らしてサングラスをずらす。
「どうしたの?」
「いや、今――雪蛇の、何つったらいいんだ、アレ。核か? 魂?? が空に昇ってったわ」
 白い尻尾の先をぴこぴこと震わせながら、白蛇も熱心に空を見上げ、舌で空を掻いている。
 ――ゆきへび、行った……。
 雪蛇は、昨冬に美郷らが創ってしまったもののけだ。だが雪の精霊として、しっかり定着してしまったらしい。
「来年くらいにゃ、オメーにも視えるかもだぜ」
 年経るごとに精霊としての輪郭を強固にし、いずれは雪を纏わずとも姿が見えるようになるかもしれない。楽しみにして良いのやら、と美郷は曖昧に笑った。

 数日後。
 冬の名残を惜しむ寒波が巴を訪れ、狩野家の周囲は再び雪景色となった。
 しかし、既にともだちと「お別れ」した後だった雪蛇は、姿を現すことはなかった。

おしまい

​去年のおはなし:『白太さんと雪のともだち

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